いとも美しき西洋版画の世界@埼玉県立近代美術館 [展覧会@マグリット]
「いとも美しき西洋版画の世界 -紙片の小宇宙を彷徨(さまよ)う」展
1人のコレクターが50年の歳月をかけて築きあげたコレクションによる、
15世紀から20世紀までの西洋版画の流れが一望出来る展覧会。
■ 埼玉展
会場: 埼玉県立近代美術館
会期: 2008年4月5日(土)~2008年5月18日(日)
http://www.momas.jp/
■ 長野展
会場: ハーモ美術館
会期: 2008年5月24日(土)~2008年7月27日(日)
http://www.shinshu-online.ne.jp/museum/harmo/
■ 東京展
会場: 八王子市夢美術館
会期: 2008年12月5日(金)~2009年1月27日(火)
http://www.yumebi.com/
■ 青森展
会場: 八戸市美術館
会期: 2009年4月25日(土)~2009年5月31日(日)
http://www.hachinohe.ed.jp/artmuseum/
↓ チラシ
↓ チケット
↓ 技法解説
雰囲気だけですみません。
読める状態にするとサイズが大きくなりすぎてしまうので、
こういう親切なシートも用意されてた、ということで…。
↓ 図録
カバーが一体化した装丁。(折りたたんだ内側も広げてます。)
章立ては以下の通り↓
第Ⅰ章 誕生から黄金時代へ
15~17世紀--北方の版画 ドイツ、フランドル、オランダ
第Ⅱ章 多様な展開 線に宿る綺想
16~18世紀--イタリア、フランスの版画
第Ⅲ章 近代の黎明 諷刺と幻想
18~19世紀--イギリス、スペインの版画
第Ⅳ章 画家と版画 “画家にして版画家(パントル・グラヴール)”の活躍から世紀末デカダンへ
19世紀--フランス、ドイツ、イギリス
第Ⅴ章 巨匠たちの饗宴
20世紀--ヨーロッパ
・・・実はどちらかというと版画にはあまり関心はなかったりする。
なので最初に開催を知った時もさして触手は動かず。
そして協力:町田市立国際版画美術館の文字を見て、
町田の所蔵品を持ってきたのかと激しく勘違いし、
尚更わざわざ足を運ぶまでもないかな・・・と思ったところで、
何故か(展示概要は見逃したくせに)、巨匠の名前が並ぶのが目に入る。
何だか凄そうな面々かも・・・観といた方がいいかも・・・?と迷っていたところに
お得なチケットが目の前に現れ、鑑賞決定。
15世紀から時代の流れを追って展示された作品は、
初めて目にする作家が多い中に超有名どころが現れたり、
その技術の細やかさに感心したりと、予想を覆す見応え。
絵を彫る、という時点でもう感心するのに、
黒一色にも関わらず遠景・中景・近景と色調を段階的に薄くすることで遠近感を出したり、
細かい多数の線で立体感を表現したり、
何気に余白を活かしたり、
まるで写真の様な克明な描写だったり…
等々、その表現力にはただただ感心するばかり。
知ってる画家の作品もそうでない作品も、存分に楽しませてもらった。
その作品を原画とした版画が展示されていたけれど
(そんな中でクラーナハは本人作!)、
線のみで表現された異形の世界は、また絵画とは違うユーモラスさが漂っていた様な。
↓ ヒエロニムス・ボス(原画) 版刻:ピーテル・ファン・デル・ヘイデ
「盲人の手を引く盲人」 1550年代 エングレーヴィング
↓ ピーテル・ブリューゲル(父)(原画) 版刻:ピーテル・ファン・デル・ヘイデ
「最後の審判」 1558年 エングレーヴィング
↓ ルーカス・クラーナハ(父) 「聖アントニウスの誘惑」 1506年 木版
↓ ヘンドリック・ホルツィウス
「羊飼いの礼拝」 1600年頃 エングレーヴィング
今回のチラシに使われたこの作品、
実は未完の状態のまま、息子が刷って発売したとか。
全体を均等にではなく部分にわけて彫り込んでいく
エングレーヴィングならではの制作過程が窺えるものだそう。
線が本当に細やかで、陰影のつけ方は凄過ぎるとしか言い様が無いかも。
そして未完成であることを活かしてチラシに仕立て上げた
チラシ担当者のセンスは素晴らしいと思う。
集客を考えると、近現代をもっとアピールした方がよかったかもと
思ったりもしたけれども。
・・・その近現代。
“版画”という言葉の印象と展覧会のチラシからは中世メインかという
印象をうけそうだけれど、実はそうそうたる面子が目白押し。
1人1点の作家も多いけれど、それでも挙げるとキリがないので、ちょっとだけご紹介。
↓ オディロン・ルドン
「そして空から舞い降りた大きな鳥が彼女の頭のてっぺんに襲いかかる……」
(ギュスターヴ・フロベール『聖アントワーヌの誘惑 第一集』より 第3図)
1887年 リトグラフ
この人程、黒の世界が似合う人はいないかも、
といっては過言ではないかも?
↓ アンリ・マリ・レイモン・ド・トゥールーズ=ロートレック
「マルセル・ランデ嬢、胸像」 1895年 リトグラフ
こちらの作品、書籍に掲載されたバージョンがなんとお隣はうらわ美術館での
「誌上のユートピア-近代日本の絵画と美術雑誌1889-1915」展で
展示されていて、偶然にびっくり。
また、これだけではなくて、ビアズリーのサロメ挿絵も、
両美術館で同じものが展示されていて重ねてびっくり。
版画と本、印刷繋がりでタイアップすればよかったのに、勿体無い~!
↓ ジェームス・アンソール
「大聖堂」 1886年 エッチング
ちまちまし過ぎるくらいの緻密さはお手の物といった感じ。
↓ マックス・エルンスト
「『マキシミリアーナ、あるいは天文学の非合法的行使』より」
1964年 エッチング、アクアチント
いつものエルンスト作品とはどこか一味違う印象を受ける作品。
でもやっぱり色遣いや画面の質感等、惹きつけるものがある。
↓ ルネ・マグリット
「オルメイヤーの阿房宮」
1968年 エッチング
てっきり町田の某作品が出るとばかり勘違いしまくってたので、
この作品が現れて驚いた。
国内にこんなのが個人蔵であったなんて知らなかったと衝撃。
実際の作品はもう少し色肌というか質感が滑らかだった様な気がする。
↓ ジョアン・ミロ
「岩壁の軌跡 Ⅵ」 1967年
エッチング、アクアチント、カーボランダム
展示室のトリを飾っていた作品。
ああ、確かにミロは版画似合いそう、となんとなく納得。
緻密な線の集合がこんなにゆったりまったりに進化したのかと思うと、
なんだか凄いなあとしみじみ。「刷る」ことのなんと多様なことか。
・・・というところで出口を出て、開催概要(ご挨拶)を見逃していたことに気付く。
ここで初めてこれらの作品が個人コレクションだと知ってびっくり。
質量ともにこれだけ充実したものを個人で・・・しかも50年かけてコツコツと・・・。
ただただ恐れ入るばかり。賞賛、そして感嘆。
実際この展覧会、“いとも美しき”とタイトルに冠していることからわかる様に
主催者側の版画に対する愛情が伝わってくるかの様。
会場入口ではルーペの貸し出しがあり(なるほど版画は線が細い)、
作品リストに加えて版画技法の解説シートも配布されていた。
図録もコンパクトな単行本サイズな上に、厚みはあっても軽いので携帯もしやすい。
ほとんどモノクロ一色の中の数少ないカラーの作品が
一部白黒で掲載されているのだけが少々残念ではあるけれど、
巻末にもやはり版画技法の解説がちゃんと記載されているのはポイント高し。
一見地味な企画ながら、味わい深いよい展覧会だった。静かに満足。
今回の企画は、町田市立国際版画美術館にこそ
相応しい企画だったかもという考えがちらと頭をよぎったのだけれど、
むしろ普段版画に関心のない人にこそ観てほしい展覧会ということなのかもしれない。
・・・でも会期最終日、しかも終わってから記事書くことのなんとも間抜けなこと。
幸い、関東圏は年末に八王子に戻ってくるので、その予告として・・・(というには早すぎる・・・)。
ちなみに、出品は作家70人に作品159点+2組(17点,6点)にものぼる。
長くなるので、出品作家名のみ、“続きを見る”をクリックした先に記載。
第Ⅰ章 誕生から黄金時代へ
15~17世紀--北方の版画 ドイツ、フランドル、オランダ
1)マルティン・ションガウアー <3点>
2)イスラエル・ファン・メッケネム <2点>
3)マスターAG <1点>
4)アルブレヒト・デューラー <4点>
5)マスターMZ <1点>
6)ルーカス・クラーナハ(父) <3点>
7)ダニエル・ホプファー <1点>
8)アルブレヒト・アルトドルファー <1点>
9)ハンス・バルドゥング・グリーン <1点>
10)ゼバルト・ベーハム <4点>
11)バルテル・ベーハム <1点>
12)ハインリッヒ・アルデグレーファー <7点>
13)ルーカス・ファン・レイデン <1点>
14)ヒエロニムス・ボス(原画) 版刻:ピーテル・ファン・デル・ヘイデ <1点>
15)ピーテル・ブリューゲル(父)(原画) 版刻:ピーテル・ファン・デル・ヘイデ <8点>
16)ピーテル・ブリューゲル(父)(原画) 版刻:フィリップ・ハレ <3点>
17)ヘンドリック・ホルツィウス <3点>
18)ヤン・サーレンダム 原画:ヘンドリック・ホルツィウス <3点>
19)ヤン・ミュラー <1点>
20)ヤーコブ・マタム 原画:コルネリウス・ケテル <1点>
21)ヤン・ファン・デ・ヴェルデ(子) <1点>
22)ペーテル・パウル・ルーベンス <1点>
23)レンブラント・ファン・レイン <3点>
計 55点 ※<>内は出品点数
第Ⅱ章 多様な展開 線に宿る綺想
16~18世紀--イタリア、フランスの版画
24)クリストファーノ・ロベッタ <1点>
25)マルカントニオ・ライモンディ <1点>
26)ティツィアーノ・ヴェチェッリオ(原画) 版刻:氏名不詳 <1点>
27)ジョルジオ・ギージ <2点>
28)ジャック・カロ <15点>
29)ステファノ・デッラ・ベッラ <1点>
30)ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ <3点>
計 24点
第Ⅲ章 近代の黎明 諷刺と幻想
18~19世紀--イギリス、スペインの版画
31)ウィリアム・ホガース <6点>
32)フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス <7点>
33)ウィリアム・ブレイク <4点>
計 17点
第Ⅳ章 画家と版画 “画家にして版画家 パントル・グラヴール”の活躍から世紀末デカダンへ
19世紀--フランス、ドイツ、イギリス
34)ウジェーヌ・ドラクロワ <1点>
35)オノレ・ドーミエ <1点>
36)シャルル・メリヨン <8点>
37)フェリックス・ブラックモン <2点>
38)ジャン=フランソワ・ミレー <1点>
39)ジャン=バティスト=カミーユ・コロー <2点>
40)ロドルフ・ブレスダン <3点>
41)アンリ・ファンタン=ラトゥール <2点>
42)オーギュスト・ロダン <1点>
43)オディロン・ルドン <3点>
44)ポール・ゴーギャン <1点>
45)アンリ・マリ・レイモン・ド・トゥールーズ=ロートレック <2点>
46)ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー <2点>
47)マックス・クリンガー <2点>
48)ジェームス・アンソール <1点>
49)フェリックス・ヴァロットン <1点>
50)オーブリー・ビアズリー <2組(17点,6点)>
計 33点+2組(17点,6点)
第Ⅴ章 巨匠たちの饗宴
20世紀--ヨーロッパ
51)エドヴァルド・ムンク <1点>
52)ケーテ・コルヴィッツ <4点>
53)パウル・クレー <1点>
54)ワシリー・カンディンスキー <1点>
55)マルク・シャガール <1点>
56)エゴン・シーレ <1点>
57)ジョルジュ・ブラック <1点>
58)ジョルジュ・ルオー <2点>
59)アリスティド・マイヨール <1点>
60)アンリ・マティス <1点>
61)パブロ・ピカソ <4点>
62)マウリッツ・コルネリス・エッシャー <2点>
63)ベン・ニコルソン <1点>
64)ヘンリー・ムア <2点>
65)マックス・エルンスト <1点>
66)ルネ・マグリット <1点>
67)ジョアン・ミロ <点>
68)アルベルト・ジャコメッティ <2点>
69)マリノ・マリーニ <1点>
70)エミリオ・グレコ <1点>
計 30点
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合計 159点+2組(17点,6点)
版画は美術館でも小品が多くてわりと地味な展示で時々特別展とかでじっくり見る機会がありますが、なかなか魅力的な表現法ですね。
時代、地域や作家によって技法も異なりなかなか奥の深い世界なので
こうしてじっくり見れる機会に味わいたいですね。
技法解説読みたいですが別の方法で探してみたいです。
義務教育のときに図工で経験ありますが今一番関心が向きつつあるのが彫刻です。
自分で手がけたらもっとおもしろく味わえるかなって思ってます。
by いっぷく (2008-05-19 07:23)
>いっぷくさん
今迄知らなかった版画の魅力を感じることが出来てためになりました。
そうえいば、いっぷくさんも色々コレクションされたり、
オークションにも参加されたりしてらっしゃいますが、
今回の展覧会も長年の成果なんですよね。憧れます。
ところで技法解説ですが、お渡し出来る手段を考えたいと思います。
by m25 (2008-05-22 02:31)