動物絵画の100年・前期@府中市美術館 [展覧会@日本美術]
「動物絵画の100年」展
会場: 府中市美術館 @東京都
会期: 2007年3月17日(土)~同年4月22日(日)
http://www.art.city.fuchu.tokyo.jp/01_Kikakuten/H18/Doubutsu/doubutu.htm
↑蘆雪の「虎図」の肉球が堪らんのです・・・。
(※本物はこんな粗くなくて、すべらかな堪らん質感ですよ!)
チラシ↓
なんと見開き両面。傑作をこれでもかと掲載。
外側はぱっと見水墨画系の淡色でさり気なくまとめておいて、
中を開けばカラーで華やかさをアピールって、なかなか凝ったつくりしてる。
ほんと感心。
実は、一昔前迄、日本画には全くといっていい程興味がなかった。
数少ない例外が、東山魁夷や平山郁夫、そして新聞紙上で目にして何故か心に残った、
長谷川等伯の「松林図屏風」と長澤蘆雪か誰かの虎の絵(やはり蘆雪の「虎図」?)程度。
が、数年前、何か展覧会やってないかと開いたぴあに載っていた、
わんこだらけの画が気になって行ってみた、京都での伊藤若冲展。
日本にこんな絵を描く画家がいたなんて、と結構衝撃的だった。
以後、若冲だけは別格だと思っていたのが、
昨夏の三の丸尚蔵館での「花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に>」展
(全5期中、第1期のみ見逃したのが残念無念・・・)、
東京国立博物館での「プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」を観て、
若冲以外の日本画家の素晴らしさを見せつけられてしまった。
中でもとりわけ惹き付けられたのが長澤蘆雪で、
昨秋の奈良県立美術館まで足を延ばし、「応挙と芦雪」展で
虎図をほぼ独占状態で観て、うっとりしたのが記憶に新しい。
(ちなみに、京都国立近代美術館でのプライスコレクションとはしごした)。
そんなこんなで日本画の魅力に気づき始めたところに開催されたのが、
この「動物絵画の100年」展。
府中市美術館の単独開催で巡回しないなんて勿体無い話だけど、
単独でこんな企画を立てた府中市美術館は素晴らしいと思う。
もうちょっと観たいかも、と余韻を残す程度で疲れずに観れる作品量もよし。
単独開催でも音声ガイドをちゃんと作ってるのもよし。
キャプションで簡潔に見所を提示してくれてるのもよし。
しかもこの内容で600円!とんでもない・・・。
よくこれだけ集めてきたものだ、と感心する中で、特に印象的に残った絵の画像を
集めだしたらキリが無かった・・・。そんな中から、厳選したもの(というには多いけど)を幾つか。
≪岡部洞水≫
「魚族図」
東京国立近代美術館で観てきたばかりの、都路華香の「水底游魚」や、
若冲の「動植綵絵(群魚図)」を彷彿とさせる絵。
海(左)と川(右)で、波を描き分けてるあたり、細やか。
長崎にこんないいもの持ってるなんて・・・もっとばんばん観せてせて欲しい。
(最近スペイン絵画あたりは常設展でどんどん観せてくれてるけども。)
しかし、魚だけでなく、都路華香の描く鷲や虎や龍も凄い迫力を持つのに、
今回出品されてないのは何故だろう?勿体無い・・・。
≪長澤蘆雪≫
「蛙の相撲図」
なんかもう、観た瞬間、噴出しそうになってしまった。
(Takさんのブログで仕入れた予備知識のせい?)
取っ組み合ってる2匹は勿論、何故か小人的なサイズの行司役の蛙がまたいい味出してて。
これは是非実物を観た方が楽しめるはず。
なんとユーモラスなことか。こういうのをすっと描けるセンスが素晴らしい。
江戸の時代の空気は自由闊達なものだったんだろうかとつい思いを馳せてしまう。
「鷲・熊図」
いかにも強面の鷲に睨まれ、その顔色を窺う熊の間抜けな表情が
可笑しいったらない。対で観るからこそ楽しい作品。
「群雀図」 (重要文化財)
← 全体
← 部分
今回の目玉。
凄く期待しすぎたのか、直前の応挙の屏風の雀(後述)に心奪われたせいか、
なんだか予想していた程盛り上がれなかったのが、非常に悔しい。
これを遣ったポスターの文句なんて、凄くよかったのに。
(この↓キャッチコピー、すごくほのぼのしてていい味出してると思いませんか?)
どうして虎図版のポスターは販売してるのに、この雀版のポスターは売ってないんだろう、惜しい。
しかしながら。こんなんが普通に家の戸袋とか障子とかにあるなんて想像したら・・・卒倒しそうだ。
これに限らず、和歌山のお寺から来ている絵がやたら多い。
一体当時の和歌山には何があったのか、非常に気になる木になる・・・。
後期見終わってから気づいたけど、展示は4つにわけて額縁もどきに入れられてだったので、
こんな風に繋がってなかった!うーん、微妙・・・?
「虎図」
←蘆雪 ←応挙
いやもう、この迫力、堪らない。最高!
真っ直ぐこちらを見つめる虎の視線に囚われて目が離せない。
が、さり気ないツボは、凛々しいながらにぴんとは立ちきっていない尻尾のラインと、
肉球の質感!思わずぷにぷにしたくなる可愛さらしさに気づいてしまったら、
たった今迄感じていた凛々しさすら微笑ましいものと化してしまう・・・。
というかそもそも、こんなぺったりお尻をつけたポーズ、怖いどころか可愛いだろう・・・。
ちなみに、右側の「虎図」は、いっぷくさんのコメントのおかげで見つけた、
蘆雪の師である応挙の虎図。(大英博物館所蔵で、今回は出品されず。)
応挙のが1775年で、蘆雪のが1781-89年頃だから、きっと師を手本としたんだろう。
師と弟子、2つの「虎図」、是非並べてみたい!もんである。
でも無理そうだから、せめてここで並べてみた。
そして思わず携帯で撮ったポスター写真を待受画面にしてしまった。
携帯を開く度に虎に見つめられてうっとりしてしまう(←馬鹿)。
でももう少し色鮮やかな方がいいから、作り直そうかな・・・。
≪伊藤若冲≫
「隠元豆・玉蜀黍図」
若冲っぽい様な、そうでない様な、でも薄墨の風情がなんとも味わい深い。
≪円山応挙≫
「木賊兎図」
←部分
前期限定とのことで期待していったんだけど、ガラスケース越しの為に
細部、特に毛の質感がよく観えなかったのが残念。
もっと至近距離でじっくり観たかった。
が、応挙といえば、やはり!
「時雨狗子図」
←部分
この仔犬の可愛さ、愛苦しさには、蘆雪すら及ばないのではなかろうかと思ってしまう程。
この仔犬の視線の先が気になる!のに、オペラグラスで観ても、薄い点にしか見えない。
想像力を働かせろということ・・・?
ちなみに、応挙の描いた雀というのが、これ↓
「竹雀図屏風」
↑ 左
↑ 右
← 部分
この画像だとちょっとわかりづらいけど、蘆雪の雀に負けず劣らず、
むきーっとくんずほぐれつの雀(真ん中上)、それを心配して駆けつける雀(左上)、
そんなこと気づきもせずのんびり餌を探す雀(右下)と、なんとも表情豊かで可愛さいっぱいなんである。
≪仙厓義梵≫
最初にネット上で見た時は、こんな落書きみたいな・・・と思ったのが、
実物を観てみたらば、もっとグレーがかった落ち着いた色調ながら、
何故かその可愛さに胸を鷲掴みされる感じなんである。
だって、「きゃふんきゃふん」て、絵の横に擬音語ですよ?
しかも一筆書きときたもんだ。
その昔の人ってのがお坊さんってのがまたなんとも。
そんなお茶目なお坊さんが虎を描いたらどうなるか↓
「虎図」
これが虎ですよ、虎。
この時代の人は観たことないから想像で描いたといったって・・・。
この人、ほんととんでもない人なんではなかろうか。
他にどんな絵を描いてたのか、凄く気になる人である。
・・・と、そんなにボリューム無かったかもとかいいながら、ここまで画像貼りまくりで、
凄く重い日記になってしまったかもしれない(ただでさえ、ソネブロは重くなりがちなのに・・・)が、
まだまだ紹介したい絵がある中で、最後にこれだけはという作品を。
≪狩野養川院惟信≫
「獅子図」
後ろ向きでこっそりこちらを伺う虎と、正面から見据える虎。
それが、左右を入れ替えると↓
1頭の虎に。
荒々しく大胆な筆致だけでも目を引くのに、この仕掛け。
もうただ感心するばかり。こんなの、家にあったら・・・なんて贅沢(溜息)。
これ、折角全期通して展示するなら、
前期と後期で左右を入れ替えてもよかったんじゃないのかな。惜しい。
というわけで、後期展示の蘆雪の「牛図」(重要文化財)を観れたら、
懲りずに続編を書きたいと思います。
最後までお付き合い下さいまして有難うございました。
(紫色の字で書いた箇所は、後期を観て改めて思った感想です。)
岡部洞水の魚、生きているよう。
長澤蘆雪のかえる表情がいい、
あまり知らない世界ですがいいですね、
あまり見つめているとはまってしまいそうですが、
まだ洋画にはまっています。もう少し先にとっておこう
by いっぷく (2007-04-11 06:17)
素晴らしい。
日本画の世界はやっぱり奥が深い。
繊細さも迫力も表現できる技術には見るたびに驚かされます。
墨で一発描き輪郭は濃淡や筆圧のバランスが絶妙で
多少の狂わせたようなデッサンも完璧。
本当、感動できる作品拝見させていただきました。
by (2007-04-12 11:52)
大英博物館の日本部門を見てきました。国宝級の芸術品の展示の中にこの記事の虎図(1737年)に似ているものを見つけました。
1770没の石崎元徳という人で長崎で中国絵画の審査官をしてたらしいです。
このような絵は1700年代に中国から多く長崎に流入して影響を及ぼしたようです,この記事の虎図はいつごろのものなんでしょうね。
by いっぷく (2007-04-13 06:37)
いっぷくさん、Qちゃんさん、くろたさん、そしてご覧下さった皆様、
こんな長くて重いであろうブログを読んで下さって有難うございます。
このブログ上かつてない賑わい、芦雪効果か、やはり日本画は侮れません。
ある意味、今回の作品達は、西洋の先をかっ飛ばしてるかの様な感もあります。
(いや、別に確たる根拠があるというわけではないんですが、そのパワーというか。)
>いっぷくさん
レスが遅れてる間に、コメント2つも有難うございます。
(有難やら、申し訳ないやら、です。)
この手の魚の絵、リアルさ、いきの良さに惚れ惚れします。
でも案外、日本画のよさには外国人の方が敏感そうにも思えますから、
意外と海外での方が、素晴らしいコレクションにあえる確立も高いかもしれませんね
・・・て、早速大英博物館に足を運ばれたなんて、早っ!
早速公式サイトで石崎さんを探したら出てこなかったので、tigerで探したら、
応挙のそっくりな構図の絵が出てきました。
実物が観れないから、誰かの絵を参考にすると、似た絵になるのかもしれません。
(習作の場合もあるかもしれませんね。)
ちなみに、展覧会タイトルの「100年」は、18世紀後半から19世紀前半迄
の江戸時代を差している様です。
この展覧会を観る限り、いい時代だったんだなあ、なんて思ってしまいます。
>くろたさん
素晴らしいなんて仰って頂けると、ご紹介した甲斐があります。
若冲や芦雪を知るまでは、日本画のイメージといえば、情緒的、静的な
おとなしいイメージだったんですが、
まさにそういう固定観念が覆されて、その世界の幅広さを見せつけられた感があります。
「静」と「動」、正反対を通り越す程対照的な世界が楽しめるなんて、
ほんとに日本画って奥が深いとしみじみ思いました。
by m25 (2007-04-13 23:12)
折角だから、参考までに応挙の「虎図」も載っけました。
いっぷくさん、素敵な情報を有難うございました!
by m25 (2007-04-14 00:42)
こんばんは。
コメントありがとうございました。
大英博物館所蔵の応挙の「虎図」
初めて観ました。ご指摘の通り
芦雪のそれとそっくりですね。
応挙の虎図は現在森美術館で
開催中の「日本美術が笑う」展でも
出展されています。ただし芦雪のような
愛らしい肉球は描かれていません。
by Tak (2007-04-15 22:06)
>Takさん
森美術館に応挙の虎ですか。それは是非観なくては!
実は、「日本美術が笑う」展、観に行こうと思いつつ、
会期が長いのでつい先延ばしにしてしまってます。
(そしてセットで観れると知らず、グレゴリー・コルベール展だけ観てきました・・・。)
見逃さない様にしなくては。
by m25 (2007-04-20 02:47)
m25 さん、大英博物館の石崎元徳の虎図の写真を撮ってきました、ソネフォトの方に入れておきました、見られるようでしたら、時間のあるときにご覧ください。
by いっぷく (2007-04-28 19:50)
>いっぷくさん
早速見せて頂きました!わざわざ有難うございます。
なんともいえない上目遣い・・・あまりにもひょうきんな感じで、
同じポーズに見えません。
でも、描いた人はリアルに描いたつもりなんですよね、きっと。
可笑しいなんていったら申し訳ないかな・・・。でも面白い。
こういうのを見つけてくるセンスを持ってるなんて、
大英博物館の日本コレクション、興味深いですね。
by m25 (2007-04-28 22:16)
若冲をTBさせてもります。
by kenta-ok (2007-04-30 18:24)
>kenta-okさん
TB有難うございました。
この展覧会の若冲は地味な(というかモノクロの)作品ばかりで、
また渋いチョイスだなと思いました。
去年に引き続き、若冲は今年もあちこちで観られそうで嬉しいですね。
by m25 (2007-05-03 02:37)